今から42年前の昭和33年6月、小生31歳の時、脱サラして、水産加工業を始めた。
業務の内容は、冷凍魚を切り身にしてパック詰めしたものをスーパーに納める仕事である。
この頃は、スーパー建設のラッシュが始まったときで、スーパーが増えるにつれて注文がどんどん増えていった。夜も寝ずに仕事をしないと受注を消化する事ができない時もあった。もちろんそれにつれて収益率は高くて、何百万単位で儲かっていた頃である。
しかし、小生は商売では田舎からでてきてずっと教えられ、経験をつんできたが、経理関係の基本は全然分からず、そのうえ銀行などの金融機関のことなどまったく知りもしなかった。
2ヶ月たって自分の油断と、帳面のずさんさから大変なことになっていた。一口で言えば、黒字倒産の状況になっていたのである。帳面上は黒字で会社にカネがないと言う事である。そのため3日先の10人余りの従業員の給料の支払いが出来ない事に気が付いた。
商売を立ち上げた直前で応援者もなく借りる親密な相手もおらず、一か八か思い切って当時口座を開いていた銀行に頼みに行く事にした。
その時の事を今振り返ると、
塩にまみれたドロドロの作業服のままで、ヒゲは伸び放題、この時代銀行に行けるような格好ではなかった。銀行に入ると、若い営業マンらしい男性が、どうぞと言ってカウンターの一番端の観音開きのあるところから手招きをしてくれた。「要件は何ですか?」と聞かれ、「実は営業はよく儲かっているのですが、給料を払う現金が無くて参りました。」と言ったところ、「あなたの会社でこの銀行に預金か何かありますか」と聞かれ、「何もありません。」と答えると、「銀行と言うところはあなたが考えているようなところではありません。あなたはそれはおかしいですよ。」と言われ、二口も出ず、帰ってきたが、何か悔しさがこみ上げてきて、たまらなかった。頭の先から下まで、じろじろ見つめたその目つきは今でも目の中に焼き付いている。
銀行マンの言われた事はまったくその通りで、自分が恥知らずであった事がなお自分を情けなくした。
そのことがあったから、今の健全な会社があり、そのこと以来一度も銀行に頭を下げる事はなかった。経験と恥はこのようにして人間を強く賢くしていくものだと感じずにはおれない。